Society #004
目 次
4. 三者それぞれの言い分は?
自転車それ自体の利便性は高いものなのに、その走行について安全な保障が無いのはいかにも残念なことです。
自転車利用者・歩行者・車両運転者それぞれの思いはどのようなものでしょうか?
a. 歩行者側の思いと言い分
・自転車が歩道を走るのは基本的に反対だね。
・歩道の車道側を必ずしも走らずに歩行者の通行を邪魔している。
・二人の幼児を載せたママチャリが猛スピードで歩道を走っている。
・歩行者が邪魔だと言わんばかりの態度で歩道を走るのが癪に障る。
・歩道に無造作に駐輪し、通行や歩行の邪魔になる。
・幼児を連れて歩道を安心して歩けない。
・四つ角で速度を落とさず自転車がぶつかってきた。危険だ。
・ぶつかってきても自転車側は謝りもせずそのまま逃げていく。
・自転車専用通行帯を義務としてもっと利用すべきだ。
b. 車両運転手側の思いと言い分
・交通量の多い都会では自転車は基本的に歩道を走るべきだ
・自転車専用通行帯があっても車道中央に自転車が出てきて邪魔だし危険。
・荷下しで路肩に駐停車するのは業務上やむを得ない。むしろ自転車専用レーンが邪魔。
・自転車がのろのろ車道を走られるとイラつくし、危ない。
・子供を乗せたママチャリは絶対車道を走るべきではない。
・交差点で左折する際、歩道を走っていた自転車を視認できず危険だ。
c. 自転車側の思いと言い分
・路上駐車・停車をもっと厳しく規制して自転車通行専用帯を増やすべきだ。
・ママチャリが歩道を走るのは安全上当然。むしろ歩道整備を進めてほしい。
・歩行者のマナーだって悪い。歩道いっぱいに広がって歩くのは迷惑。
・自転車歩行者道にテナントの看板やゴミや資材などが置かれ通行の邪魔。
・車道では車が無用に煽ってくるので危険だ。
・自転車走行の法規制やマナーなどの教育や情宣活動が少なすぎる。
・自転車を車道の専用レーンで走らせるなら車の路上駐車を禁止しすべきだ。
・車が多すぎるし、大型化しすぎる。運転手のマナーも悪い。
どうですか、それぞれの異論反論は尽きるところを知りませんね。
実際は歩行者であり、自転車も使い、車を運転する一人三役の方も多くいるわけで、それぞれの立場になればこのような多くの異論反論が飛び交うでしょう。
とは言うもの、なにより事件や事故が起きてしまってからでは悔やみきれません。
5. 何が根本的な問題、課題なのか
自転車にまつわる三者三様の言い分は分かりますが、それら全ての解決は一朝一夕では無理でしょうし、決定打となる解決法はなかなか見いだせないかもしれません。
背景となる問題を考えてみると、次のようなことが挙げられます。
a. 中途半端に感じる法規制
関係法規制としては道路交通法が根幹にあるわけですが、この法律は昭和35年(1960年)に成立した法律で、現在の交通事情を予測して作られたものではありません。
したがって違反などに対する明瞭な区分などが無いためにその厳密な施行には無理があり、結局取り締まりも各々の立場を鑑みて曖昧になってしまっているようです。
また多数の死亡事故か重大な事故が発生しない限り、十分な対応をしないのが我が国の法規制の実情なのではないでしょうか。
b. 自転車文化の違い
アジアの多くの地域では自転車は移動と運搬の手段という意識が強いように思えます。
対して欧州では自転車の歴史が長いためか、スポーツやレクリエーション、健康増進の役割を早くから担っていたように感じます。
その後の自動車文化の急速な発展下にあっても人々は自転車を使った楽しみ方を維持しています。
まさに「ツールドフランス」に代表されるように自転車を主役にした精神的フィールドが確立しているのでしょう。
対して日本は戦後、自動車を中心に据えた産業振興・文化振興で高度成長を進めてきたために自転車は単なる生活の道具でしか国民の意識にはありません。
確かに「競輪」という自転車競技は日本独自のものですが、それはスポーツと言うよりもギャンブルとして発達したものです。
c. 道路行政の不備
日本の道路は押しなべて狭いのが特色です。
国土自体に平野部が少なく、また都市部も人口増加にあいまって未来を見据えた都市計画が不十分なまま無造作に膨張していったことが道路事情にも影響して行政側が十分に対応できていないと言えます。
さらに前述b.項に示したように経済発展に大きく貢献する物流運搬・移動交通の主役は自動車ですから、それを主役とした市街地整備・道路整備事業が縦割り行政に見られる部分最適を原則に次々と展開されたことで、人や自転車との共生が不十分な交通網の完成となり現在に至っています。
d. 市民・国民の無知・無関心
筆者自身も大いに反省すべきですが、こと自転車に関しての教育訓練を正しく受けた記憶はありません。
子供を対象にした短時間での実地教育はされているようですが、広く大人への十分な教育はされていないのではと感じざるを得ません。
警視庁のHPを覗くと「自転車運転者講習制度」なるものが出てきました。
これを見ると驚きの内容です。
この制度は、
「自転車の交通ルール遵守を徹底するため、自転車の運転に関し一定の違反行為(危険行為)を3年以内に2回以上反復して行った者に対し、都道府県公安委員会が講習の受講を命ずるもの。」として、その対象者は『自転車を運転して信号無視等の危険行為(15類型)を行い、交通違反として取締りを受けた、または交通事故を起こして送致された者(ただし、3年以内に違反・事故を合わせて2回以上反復して行った場合。)』
となっています。
つまり、自転車の交通違反者か交通事故を起こした人を対象にした講習教育なのです。
そもそもの基本教育や事故予防教育を事前にきちっとせずに、違反や事故を起こしてから教育するのは本末転倒ではないでしょうか。
自転車は(軽)車両なのですから、簡単でも重要な内容教育を小学校・中学校・高校それぞれで継続して教育を行うべきです。
また二輪、普通、大型など免許証が必要な講習でも付属して自転車のルールや双方が守るべき法規を併せて教えるべきです。
多くの大人は機会があれば自転車に乗るわけですから、車両を扱う責任として基本的知識、法規、対人代車事故の原因などを講習で身につけさせるべきです。
これらが不十分ゆえに無知・無関心から無用な事故が生まれてしまうのではないでしょうか。