品質マニュアルは“化石”か?

それとも未来への羅針盤? ISOMS #012
今回のブログでは、「品質マニュアル」の存在意義について考えます。
皆さんの組織ではこの品質マニュアルを活用していますか?
目 次
はじめに:誰も読まない、知らない“秘宝”
「最近、品質マニュアルを見ましたか?」
この問いかけに、即答で「はい!」と答えられる社員が社内にどれほどいるでしょうか。
多くの企業では、品質マニュアルはISO認証取得時に急ごしらえで作成され、その後は“神殿の奥深くに眠る秘宝”と化しています。
誰も読まない。活用しない。果ては誰も知らない…。
気づけばホコリをかぶった存在に──。
なぜこのような事態になったのでしょう?
そして品質マニュアルは本当に“過去の遺物”なのでしょうか?

1. マニュアル=「規格の写経」では意味がない
かつてのISO 9001(2008年版まで)では、「品質マニュアルの作成」が明文化された必須要求事項でした。
多くの企業はこれに応じて、規格の章立てにそっくり合わせた“写経スタイル”のマニュアルを作成しました。
結果として、内容はお堅い文言の羅列。
規格文を少し変えただけの“形式的”な文書になってしまい、現場にとっては読みにくく、理解もしにくい。
マニュアルが今もって活用されないのは、社員が怠けているからではなく、最初から「読む意味がない」ものに仕上がっていたのです。
こうして品質マニュアルは「見せるための書類」、「審査のときだけ引っ張り出すもの」へと堕ちていったのです。
2. 規格は“義務”を外したが、“意味”まで消してはいない
2015年改訂で、ISO 9001から「品質マニュアル作成の義務」が削除されました。
多くの現場では「じゃあ、無くてもいいよね」と安易に結論づけられ、マニュアルが消えていった企業もあります。
けれど、マニュアルが無くなったからといって、「品質をどのように管理するか」という指針そのものが不要になったわけではありません。
実際、審査の現場ではこう聞かれることがあります。
「御社では、品質マネジメントの全体像をどこに記していますか?」
つまり、文書名がマニュアルであるかどうかではなく、「品質に対する組織の思想や運用の枠組み」が、社内外にわかりやすく伝えられているかが重要なのです。
3. 品質マニュアルに求められる“再定義”の視点
では、これからの時代において、品質マニュアルはどのような役割を果たせば良いのでしょうか。
もはや「規格の解説書」ではなく、「品質という概念を、組織に根付かせる設計図」にまず変化させるべき時です。
具体的には、以下の3点が重要です。
1.品質の定義を明確にする
製品品質だけではなく、「業務品質」「組織品質」「人の品質」にまで踏み込む。
2.誰でも読める“やさしい言葉”で語る
専門用語や抽象的表現は避け、現場の業務と直結した表現で記す。
3.日常業務とリンクした“運用型指針”にする
マニュアルを棚に並べるではなく、業務の中で何度も参照される業務プロセスの“MAP”であり、“羅針盤”であるべきです。
このような方向に舵を切ることで、品質マニュアルは「作るためのもの」から「使うためのもの」へと進化していくはずです。

おわりに:品質マニュアルを、皆の手に
品質マニュアルを単なる“受審義務の象徴”と見なしてしまっていませんか?
しかし、それは組織の品質に対する考え方、価値観、姿勢を示す重要なメッセージ文書でもあることに再注目してください。
変化の激しい今の時代こそ、品質マニュアルを再定義し、「品質経営の羅針盤」として蘇らせる好機ではないでしょうか。
マニュアルが語るべきなのは、羅列された過去の規格条文ではありません。
これからの「私たちの品質」とは何か?です。
それを言葉にする力が、今、必要なのではないでしょうか。
了
By イソ丸研究所