ISOMS #007
プロセスアプローチを憶えていますか?
目 次
はじめに
「過程が大事」、「いやいや結果が大事!」 こんなやり取りをよく聞きませんか?
はたまた「品質は工程で作り込まれる」なんて話も耳にします。
ここで言う『過程』及び『工程』は「ある活動の経過」であり、それを「プロセス」と置き換えてもさほどの異論は無いでしょう。
さて、ISO 9001であるQMSを代表とするISOマネジメントシステム(ISO・MS)には「プロセスアプローチ」なる仕掛けが組み込まれています。
仕組みは至って単純で、かつ普遍的?なためか、ごく自然に皆さんはその道具に接しているのではないでしょうか。
でもそのプロセスアプローチを意識して役立てているかと言えば、どうですか?
今回は、この仕掛けである[プロセスアプローチ]についてお話をしていこうと思います。
1. プロセスアプローチは何なのか?
1-1. その歴史は
ISO認証を担当する外部審査機関では、だいぶ以前から「プロセスアプローチ審査」と称する方法に切り替えていることでしょう。
これまでの「規格要求適合審査」と称して〝ISO規格に活動が合っているか?“を審査する方法に固執するのではなく、組織活動の生きた実態を検証する方法として主流となってきています。
「プロセスアプローチ」自体は概念としてQMSの2000年改訂で登場し、PDCA及びリスクベースの考えと並んで規格の骨格を成すものです。
ISO規格要求事項ではありませんが、それに準じたものと考えた方が良いでしょう。
2015年大改訂により認証組織自体への採用を強く推奨されているものです。
1-2. そもそもプロセスとは何か?
プロセスの定義は「入力を出力に換える一連の活動単位」となります。
それは【インプット】⇒【ファンクション】⇒【アウトプット】と言う一連の経過単位で構成されます。
シンボリックに図示すると下図のようになります。
普段の仕事や日常の活動では、この単位プロセスが多岐に連なり、継続的に様々な成果を産み出しています。
このプロセスのポイントは、
① インプットするモノには図のようにいろいろなものがある
② インプットされたモノの変換器が「ファンクション」である
③ ファンクションでは活動・機能・役目などで変換されたアウトプットが生み出される
④ アウトプットの「何らかの成果」は、インプットされたモノに価値が付加される
⑤ 「何らかの成果」は次のインプットするモノになり、プロセスは連続していく
ここで最も大事なことは、アウトプットは単なる結果ではなく、+αが伴った期待される成果でなくてはなりません。
もちろん成果と言ってもいろいろあり、必ずしも「高級」とか「最上級」だけではありません。
目的としたもの、意図したものがそのプロセスにおける期待される成果となります。
またプロセスには次の図に示すような性質が異なる幾つものプロセスがあります。
・コアプロセス:プロセスA~Cにおける個々のプロセス
・コントロールプロセス:個々のプロセスに内在し、その制御を行うプロセス
・サポートプロセス:メインプロセス(A~C)・I/P・O/Pを支援するプロセス
上図でも分かるとおり、I/P~プロセス(A~C)~O/Pは一連の流れと見ることができることから「フロー」とも言われます。
身近には『フローチャート』と言うものをご存じのはずです。
1-3. プロセスを形成するもの
違った視点からこのプロセスを分解してみましょう。
下図をご覧ください。どこかで見たことはありませんか?
亀の形に見えることから、一般に「タートルチャート(タートル図)」と言われるものですね。
これはプロセスを可視化する際に用いる原型であり、プロセスの全体像を理解し、分析し、改善するためのシンプルかつ直感的な方法でもあります。
この図からプロセスの主要な要素を理解することができるのです。
① インプット | プロセス実行に必要な資料、情報、物質などの入力 *インプットがどこから来るのかも重要 |
② アウトプット | プロセス成果としての製品、サービス、情報などの出力 *アウトプットをどこへ渡すかも重要 |
③ プロセス名/責任者 | プロセスの識別・プロセスの実行責任者の明記 |
④ 物的資源 | プロセス運営に必要な資源 |
⑤ 人的資源 | プロセスに必要な人財 |
⑥ 運用手順 | プロセス運用方法・手順 |
⑦ 評価指標 | プロセスのパフォーマンス測定指標・設定基準 |
さらにこのタートルチャートを用いることで、組織内のプロセスがより明確になり、プロセス自体の効率化や潜伏化していた問題に対する改善の機会が出てきます。
実はプロセスアプローチはこのタートルチャートを上手に取り込んだ仕組みであり、手法なのです。
1-4. ISO 9001規格で語られている箇所
ところでISO規格ではこのプロセスについてどのように触れているかお分かりですか?
ISO 9001:2015規格には「0.3 プロセスアプローチ」としてその説明がなされています。
この項目自体はしかしながら要求事項ではありません。
要求事項としては「4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス」の4.4.1項に羅列されています。
但し、プロセスアプローチそのものの要求事項ではないのです。
プロセスアプローチの主要素が分かりやすく表記されているのです。
「だからプロセスアプローチは規格要求事項でしょ!」と言われるかもしれませんが、あくまでも要素は要素で、全体の「プロセスアプローチ」ではありません。
でも結果的には組織は規格の骨組みになっているプロセスアプローチを確実に理解しておくべきでしょう。
そのような背景があることを理解した上で、1-3.に示した①~⑦項がどれか見てみましょう。
- プロセスに必要なインプット、及び期待されるアウトプットを明確にする⇒①・②
- プロセスの順序及び相互作用を明確にする⇒①・②・③
- プロセスに必要な判断基準及び方法を決定し、適用する(一部文章省略)⇒⑥・⑦
- プロセスに必要な資源を明確にし、それが利用できることを確実にする⇒④・⑤
こんな感じでタートルチャートの主要素が実は規格要求事項になっていると皆さんはご存じでしたか?
多くの場合、組織の品質マニュアルではそれぞれの要求事項に対して詳細はそこで語られていませんし、またタートルチャートなども表記されていないでしょう。
また内容を見ればお分かりの通り、日常活動においては当たり前のことなんですね。
特に製造業界では、昔から「QC工程表」などで工程管理を徹底的に行ってきました。
また建設業界も同様に厳重な工程管理を通して様々な工種、すなわち多種の施工プロセスを管理してきました。
このタートルチャートの構成主要素がどれもプロセスを構成する必須アイテムだと言うことは皆さんの日々の活動から納得できると思います。
したがってプロセスそれ自体への理解は十分なはずなのですが、それでも少なからず問題が起きるのはなぜなのでしょうか?
1-5. プロセスアプローチとは?
ところでプロセスアプローチとはどのような意味なのでしょうか?
ゴルフではアプローチと言う言葉をよく使います。
「アプローチショットを外した」なんて言いますよね。そのアプローチは「接近」の訳に近いでしょう。
でもプロセスアプローチの「アプローチ」はその感覚での表現でしょうか。
「(期待されるプロセス)に近づける原理とその行動手法」とでも訳すと分かりやすいかもしれません。
「原理」とは、前項1-2及び1-3項で述べた構成と主要な要素群です。
それでは「行動手法」とは何でしょう?
これも端的に言えば、「組織内において目的とする意図した成果を出すために関係するプロセス(業務)を明確にし、その相互関係を把握し、運営管理する手法」です。
またプロセスアプローチを中心的概念に、PDCAサイクル及びリスクベースの考え方を加えてマネジメントすることでQMS(ISO 9001)のみならず、EMS(ISO 14001)などのマネジメントシステムを運用できるようになっています。
そのような活動システムの基本であり、規格の重要な考え方であるプロセスアプローチを皆さんは常日頃の活動の中で意識しているでしょうか?