ISOMS #006

品質マニュアルはどこへ行くのか?

 ISO 9001の認証取得を果たされてもうどれほど経ちましたか?
「ISOとるぞ!」と経営者が宣言し、皆さんが一所懸命に作った品質マニュアルですが、その後有効に使っているでしょうか。

 JIS Q 9001規格を並べ、社内総出の叡智を結集して造り上げられた品質マニュアルですからもっと活用しなくてはなりません。
外部審査機関にも提出し、難解な質問に答えつつ無事に認証取得を果たし、その後は一年に一回のサーベランスと三年ごとの更新審査をかいくぐり、現在に至っていることでしょう。

 その間に規格改定や組織自体の改変などがあって、品質マニュアル自体の改訂を何度か実施されるのが一般的です。
聞くところによれば、その品質マニュアルは実際のお仕事で以下のように活用されているそうです。

  1. 管理職全員の座右の書になっている
  2. 新入社員の入社式で全員に配布し、自習させている
  3. 製造現場の職長/施工現場所長の実務マニュアルとなっている
  4. 内部監査・外部審査の時だけ受審側関係者が持ち歩いている
  5. 経営者が外部審査前の予行演習で虎の巻にしている
  6. 社員研修時にISO教育としてマニュアルを読み上げている

1.は嘘くさいですね。
2.は自習で理解できるとは驚きです。
3.はまれですが、実際に役立っている例はあります。
4.は監査や審査以外での利用以外は無いと言うことです。
5.は予行演習自体が問題ですが…。
6.はお経じゃあるまいし、習得効果は期待薄でしょう。

以上の例で効果的な使い方となっているのは3.ぐらいでしょうか。

ところで品質マニュアルとは何なのでしょうか?
今回は「品質マニュアルの行方」と題して、いろいろと考えてみましょう。

 品質マニュアルの名が初めて登場したのは1987年に発行された一番初めのISO 9001/9002の4.2項「品質システム」a)項の下にある「備考」のこれまたa)項でした。
しかしその備考は要求事項ではありませんでした。

 その品質マニュアル作成が要求事項となったのは、1994年改訂時でした。
そこには以下のような内容が示されていました。

品質マニュアルの1987年版要求事項内容

4.2 品質システム
4.2.1 一般
 供給者は,製品が規定要求事項に適合することを確実にするための手段として,品質システムを確立し、文書化し、維持すること。

 供給者は、この規格の要求事項をカバーする品質マニュアルを作成すること。

 品質マニュアルには品質システムの手順を含めるか、またはその手順を引用し、品質システムで使用する文書の体系の概要を記述すること。

 現在、ISO 9001認証取得を果たしている企業の多くはこの1994年版に基づく認証審査を受けられたと思います。ここから品質マニュアルとの長い付き合いが始まりました。

 これに対してISO 14001環境マネジメントシステム(EMS)の方は1996年に初登場して以来、「環境マニュアル」の要求が無いのです。

 なぜでしょうか?

 推測の域を出ませんが、EMSでは組織ごとに捉える環境側面、あるいは問題、リスクなどが多様であるため特定の環境マニュアルの形式や内容を要求することが困難と考えられたのではないかと思います。

 ただQMSを先行して認証取得していた企業などはその後のEMS認証取得に際しては品質マニュアル形式で環境マニュアルを作成している例が圧倒的です。

 当然ですが、環境マニュアルを作ってはならないと言う規格要求事項はありません。
自由で良いのです。

したがって多くのEMS取得組織ではQMSにならって環境マニュアルを持っています。

  話をQMSに戻しましょう。

 品質マニュアルは、組織内での品質管理を確立し、維持するための重要なツールとして具体的にISO 9001:1994に登場したことは前2項で述べた通りです。
それまで日本人技術者が馴染んできたTQCにもそのような概念はありませんでした。

 ISO認証取得組織内の文書や帳票類を隈なく引っ張り出し、その整備から始めることになり、「ISO文書体系」として文書・記録システムを構築しました。

 下図のようなピラミッド体系がどこでも作られましたが、ただこのピラミッド形式にしろと言う規格要求事項はありませんでした。

 しかし規格要求の中で品質マニュアルには「品質システムで使用する文書の体系の概要」が分かるようにと言われていましたから、上図に示すピラミッドの形で文書体系の概要を表しているわけです。

 何もピラミッドにしなくとも良いのですが、階層化することで品質マニュアルが組織全体に共有された性格を表していることを明示しているわけです。
結果的には審査機関や教育機関などの情報を基に、どこもかしこもこの壮大なピラミッドを建設しました。

 この図で分かるように品質マニュアルは社内文書、記録様式、それに外部文書などを従えた最上部に位置するのが通例でした。
これはあくまでもその社内における位置関係で、それこそ六法全書(社内から見れば外部文書になります)すらも品質マニュアルが従える格好になってしまいますが、これは決してその内容の優劣ではなく、あくまでも社内文書管理システム上の構図です。

 また企業には就業規則やら総務・庶務規定やらと人事を含めた種々の社外秘扱いの規定類が結構あり、また経営・経理など企業の中枢に関わるマル秘文書・記録も当然あります。
それらはこの品質文書ピラミッドには一般的に含まれません。

理由は二つあります。

 一つ目は、ISO 9001認証取得対象が「製品品質」を作り込む部門部署であったためです。
営業・購買・設計・製造/施工・検査・出荷などの担当部門部署が直接的な審査対象であり、その他の部門部署は間接的であることから直接的な部門部署の文書・記録類が中心となったためです。

 二番目の理由は、就業規則、経営情報などを審査対象として開示を求められることに対する拒否反応が受審企業側に根深くあったためです。
「製品品質の審査に何の関係があるんだ!」と言うわけです。
ですから、当初はそれらの関連部門部署は認証範囲=審査範囲に入っておらず、当然内部品質監査の対象外でも許されたのです。

 現在では上記のようなことはまれでしょう。
それはISO 9001の考え方や視点が「製品品質」⇒「業務品質」⇒「経営品質」に注目するように変化してきたからです。

 もちろん経営の有り様をじっくり審査すると言うことではなく、製品品質は業務の良し悪しに左右され、その業務は企業経営からの影響を受けている事実に対する確認作業です。

 製品品質を支える経営資源の「ヒト(人事・教育)」、「カネ(経理・経営)」、「モノ(経理・総務・庶務)」に関わる間接部門の重要性は否定できません。

 ということで外部審査員から確認作業の意味合いで審査を受けることが多くなっていると思います。
それでは品質文書体系の頂点にあった品質マニュアルは何のために存在したのでしょうか?

 品質マニュアルの主な目的は、組織内の品質方針や手順を文書化し、明確に定義することです。
これにより、組織内のすべての関係者が組織が定めた種々の品質基準に従って作業し、一貫性を確保できます。
またこのマニュアルは、品質管理体系の一部として、品質目標の達成を支援し、顧客満足度を向上させるための枠組みを提供できます。

 さらに法的要件や規制に適合するために必要な基準や手続きを明示し、監査や検査に対応するための文書を提供するだけでなく、組織内での品質管理を強化するための有用なガイドにもなり得ることから新しい従業員のトレーニングや品質管理教育のテキストにも変身できます。

 このマニュアルを含めて業務の一貫性を示す複数の手順類や基準類を持つことで、製品品質と業務品質の向上と共にさまざまな不備・不良の減少に役立てなくてはなりません。
最も現実的で有用な目的としては外部審査及び内部品質監査への対応がスムーズにできることです。

 それは100%近くの品質マニュアルがその構成が規格要求事項順であることに起因します。
ある意味でその構成様式がQMSの硬直化と実業務からの乖離という弊害を生んだとも言えます。

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