ISOMS #005
目 次
3. 品質は「品格」+「質」である
ここで日本の品質管理の父と賞され、QCサークル活動の生みの親であり、TQCの先駆的指導者の一人である「石川馨」博士に登場願いましょう。
博士の考えはこうです。
『「製品の品質」は欧米の考えである「狭義の質」である。
対する「広義の質」とは仕事の質、サービスの質、情報の質、工程の質、部門の質、人の質、システムの質、会社の質等、これら全てが含まれる。
品質管理ではこの「広義の質」を管理することが基本である。』
この考え方が、QCをTQCへ、さらにTQMへと発展した源になります。
これはまたQMSの基盤にもなりました。
その証拠に、QMSの関連規格であるISO 9004:2018版の名称は「品質マネジメント−組織の品質−持続的成功を達成するための指針」となって、ここに「組織品質」が出てきます。
内容を見ると、4.1項 組織の品質 として
「組織の品質とは,持続的成功を達成するために,組織固有の特性がその顧客及びその他の利害関係者のニーズ及び期待を満たす程度である。何が持続的成功の達成に関連しているのかの決定は,その組織に任されている」と記されています。
もちろんこの規格は要求事項を記したものではありませんので何ら強制力があるものではありませんが、組織が製品品質で成功を収めるために組織の品質を高めるための指針として、その必要性を説いています。
簡単に言えば、良好な製品品質を生み出すには「業務品質」を向上させ、また組織の品質、即ち「経営品質」を磨き上げる不断からの努力が組織に無くてはならないことになります。
まさに組織の品格は経営者を含む全従業員の品性そのものと言って良いでしょう。
コンプライアンスとガバナンスが求められるのはそのためです。
ここで「品質」の単語を次の図で今一度見つめてみましょう。
まず「質」がその組織の技術力であり、業務品質でもあります。
これには固有技術と管理技術、それに汎用技術の三者すべての能力の高さが求められます。
それだけではありません。
それぞれの実施プロセスに過ちや虚偽があってはなりません。
QMSなどがプロセス・アプローチを強調するのもそのためです。
しかし、その「質」をコントロールし、向上させるのは「品」の役割でもあります。
さらに両者には「人」がその主役として介在します。
今回のダイハツ工業、豊田自動織機などの事件についてもこれが当てはまるのではないでしょうか。
歴史のある老舗で、技術一流と称された有名企業の品性がこんなものとは誰も信じられませんね。
4. いろいろな品質の区分
イソ活でQMSを使われている方々は、「品質」自体の定義をよくご存じですよね?
でもISO 9001:2015にはその定義は出てきません。
用語の定義としては、ISO 9000:2015 「基本及び用語」に頼ることになります。
その2.2.1項「品質」には、
「~~ある組織の製品及びサービスの品質は,顧客を満足させる能力,並びに密接に関連する利害関係者に対する意図した影響及び意図しない影響によって決まる。」
とあり、次に3.6.2項に「品質」について、
「対象(3.6.1)に本来備わっている特性(3.10.1)の集まりが,要求事項(3.6.4)を満たす程度」
と定義されています。
なんだかこの意味は難解ですね。
だからISO規格は嫌なんです。さらりと理解できない。
それはともかく、少し実社会で通用するように柔かめに言うと、
『組織が提供する製品やサービス(対象)の機能や特徴(特性)がお客様のニーズ(要求事項)にあっているのかどうか(程度)』になります。
つまり品質は顧客により決まり、その顧客満足度で品質の良し悪しが確定するということです。
品質の性質を分解したのが、デイビッド A ガービン氏(ハーバード・ビジネスの先生です)で、
- 超越的品質:美しさなどの五感も含めて最上級であること
- 製品の視点:性能や機能が優れていること
- 顧客の視点:顧客が満足すること
- 製造の視点:設計仕様通りにつくられていること
- 価値の視点:コストパフォーマンスが良いこと
としています。
納得がいく分類ですね。
顧客満足度についてはその中の第3項「顧客の視点」が該当しています。
日本においても1980年に理科大の狩野紀昭教授が「狩野モデル」として次のような分かりやすい5つの品質要素を打ち出しています。
- 当たり前品質:あって当たり前、でも無いと不満に感じる
- 一元的品質:あると嬉しく感じ、無いと不満に感じる
- 魅力的品質:本来無くても良いが、あると嬉しく感じる
- 無関心品質:その有無自体が顧客満足には何の影響も与えない
- 逆品質:あると満足度が低下し、逆に無ければ嬉しいと感じる
この5項目を図示すると以下のようになります。
どうでしょう? ご自身の日頃からの体験でこの区分法をイメージしてみてください。
これとは別の視点で、昔から次のようにも品質を分類されています。
それは顧客によって決まる品質ではなく、作る(提供する)側による品質です。
- 設計品質:狙いの品質
- 製造品質:出来映えの品質(建設業なら施工品質となります)
両者合わせて「総合品質」とも言います。
多くの企業では商品開発にとどまらず、日々の生産活動において各々の担当者は顧客目線のつもりで品質を作り込もうとしています。
この二分された設計品質と製造品質の役割は非常に重要です。
特に設計品質は、顧客が満足するであろう性能・機能・デザイン等を具体的に仕様や図面に表さなくては、その後の製造・施工で頑張っても売上に結びつかなくなります。
俗に「設計品質で製品の7割から8割が完成する」とまで言われるほど、設計工程は重要だということです。
反面、十分な時間が担保されていないことも事実です。
製造(施工)品質は、仕様書・図面などの設計品質を過不足なく具現化し作り込むものです。
高度な固有技術と漏れのない管理技術、それに自在な汎用技術の活用が相まってこの品質を支えます。
どちらにしても品質の要素は単に「製品品質」だけのことでは無いことがお分かりでしょう。
組織には設計・製造(施工)以外にも、企画・営業・購買・資材・経理・総務・検査(品管)・出荷・メンテなどさまざまな業務要素が何らかの形で品質に関与しています。
これはソフトウェア産業やサービス業界でも間違いなく言えることで、それぞれの業務品質も非常に大事な立役者となります。
常に組織は多様な品質の現状観察を行い、改善と改革を続けて行くべきことがお分かりになりましたか?
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