ISOMS #004
目 次
3. 要求事項を組織に柔らかく溶かし込む
3.1 要求事項=守るべき優しいルール
これまでつらつらと要求事項の発生とその背景についての概略を述べてきました。
英国サッチャー首相の仕掛けた罠であったかどうかはもはや闇のかなたですが、「認証=審査」の要件であったことはご理解できたかと思います。
それはともかく現在進行形が大事で、要求事項に対する外部審査員の解釈も以前とは比べ物にならないほど柔軟になっているようです。
ただ彼らは「分からない時は原文に立ち返りましょう。英語のニュアンスはこうなんですよ」と必ず仰るようです。
確かに英国やら米国(MILやANSI)の規格要素がベースで、ISO本部の著名な方々による規格制作過程も英語がメインでしょうから、その微妙なニュアンスを知っておくことはきわめて大事です。
しかしそれが翻訳され、JIS化される過程では我が国の名だたるメンバーが熱い討議を繰り広げ、喧々諤々の果てに作り上げた事実があります。
よく誤訳だ、異訳だと言うご意見も多々あり、なるほどと感心する内容もありますが、あえて我が国流に翻訳している部分もあるのではないかと思います。(その是非の判断は難しいでしょうが…。)
確かに海外取引がメインの組織では原文忠実主義の方が解釈上のリスクを避けられるでしょうが、日本国内が営業対象であれば、そこまで細かくこだわらなくても良いのではないでしょうか。
なぜなら民族・人種・宗教・風俗・風土など異なる要素からの習慣的思考と行動にはおのずと各国で微妙な違いがあるはずです。
原文に忠実と言ってもそこから欧米の文化的背景までを十分に理解するのは至難の業であり、反面、わが国には我が国ならでは思考と行動様式が古来より厳然とあります。
もちろんグローバルスタンダードへの理解は重要で、ただ表現にとらわれるのではなく、その意図したところを読み取る必要は大いにあります。
そのためにはISO 9001の規格だけでなく、必要に応じてはISO 9000:2015「基本及び用語」とかISO 9004:2018「組織の品質−持続的成功を達成するための指針」など多くの関連規格にも目を通すことは決して無駄にはなりません。
それはEMSでも同様で、各々の付属関連規格には要求事項はありませんが、メイン規格への理解を深め、補強してくれるための教材、あるいは時にヒントを与えてくれるものでもあります。
大事なことは規格要求に振り回されるのではなく、あくまでも自らの組織内に隠れているかもしれない要素の調査・発掘が基本です。
加えて組織内に該当するルールが確立しているか、でもあり、またルール自体は仕組み(=システムの骨格)の進行役であり、番人でもあると言えます。
それを組織の各人がそれぞれの責任と義務感を持って守ることで仕組みが動き、連携プロセスとなって組織のシステムが回り出していき、求める成果を産み出します。
前にも述べましたが、要求事項はプロセスの交通標識であり、活動システムのルールです。
それなら自然と守れるルールにしましょう。
そのルールとは必ずしも制約だけではありません。
上手に複雑なプロセスを動かす段取りの仕掛けであり、だからこそマネジメントシステムになるのです。
さらに言えば、認証取得してからどの程度の歳月が流れたかは分かりませんが、そろそろ規格用語使用を従来使っていた用語や分かりやすい言葉に切り替えても良いのではないでしょうか。
もちろん対応する用語が無い場合や規格要求で初めてお目にかかる用語も結構あるでしょうが、組織の皆が共有できる用語の使用で、業務のWスタンダードへの傾斜を防げるかもしれません。
これまでの外部審査員とのやりとり、ISO解説書の字句通りの解釈、認証取得初期のコンサルタントの指導はある意味、過去における規格要求事項の解釈です。
もしも現在、QMSやEMSが以前のままの形でその管理システムが硬化し、組織の効率性を阻んでいると感じるのならば、その感じた時が改善、改革の好機です。
前例に縛られる過去よりも未来に道が開かれる今を大事にしましょう。
(【4】へ続く)