ISOMS #004

 2.1 要求事項の原点

 昔はともかく、現在ではいかなる業種・業態でも使えることを標榜しているISO・MSですが、たとえばISO 9001(QMS)では、組織は何らかの「製品」を生み出し、顧客に提供しているわけですから、『顧客満足』を目的としてPDCAを回し、必要な活動を行うことを規定しています。

 どの業種でも導入できるQMS規格には業種特有の「固有技術」の表現や直接的言及はありません。
これは環境マネジメントシステム(EMS)など他のシステム規格でも同様です。
主として「管理技術」及び付帯する「汎用技術」の管理とその行使についての規定が基本となっています。

 その管理技術に対して「重点管理ポイント」となるのがいわゆる『規格要求事項』と言えるでしょう。
簡単に言えば、道路上にある交通標識や表示マークみたいなものです。
道路交通法や諸々の法規制が裏打ちされたそれらを守ることで、目的地までの運行プロセスが安全にキープされるわけです。

 交通標識のように簡素化されていませんが、規格要求事項の内容は、全くの異次元の世界ではありません。
QMS規格に含まれる多くの業務要素自体はQC及びTQC,それにTQMの主要なものでもあります。

 ただしそれらの多くは供給者目線での仕組みであり、対してQMS規格そのものは購買者目線ですから、そのズレは如何ともしがたいものがあることも事実です。供給者目線であれば、製品品質は作られたモノにさまざまな検査で測れます。
ところが購買者目線では検査結果も必要不可欠ですが、第三者の目によりモノを作り込んでいくプロセスへの審査及び監査で、品質の価値を判断することに重きを置きます。

 なぜなら製品品質自体は主に「固有技術」が結晶化したものですが、製品品質が作り込まれる過程はバリューチェーンとして契約・設計・購買・製造/施工・引渡と言った各プロセスがシステムとして連携機能していく主体的な「管理技術」の総合的運用で成立するものです。
それら個々のプロセスを品質保証の確認のために購買者側が行う監査は欧米の軍需産業では従来から一般的だったのです。

 その監査を一般の工業製品にも当てはめようとすれば顧客側のみならず供給企業側の負担も増大する恐れがあり、その解決策に第三者による「審査及び認証付与」という方式を開発し、組み込んだのが前述の英国製BS5750規格だったのです。

 「審査及び認証付与」のためには、厳密な判断ベースが求められます。
それが今でも我々を悩ます要求事項なのです。
明らかにこれは英国の国家戦略でした。
BS5750にはその後のISO 9001:1994の構成要素の卵が多く含まれています。

 また製品作りの各プロセス及び周辺プロセス・活動に対する緻密な解析は驚くべきものであると言えます。
一般的に、管理には「Control」と「Management」が英訳では当てはめられます。
Managementを訳せば、『管理』と『運営管理』の二つが出てきます。
Controlはどうでしょうか。
「管理」、「制御」が普通に訳として使われますね。

 これは欧米と日本の文化や風土の違いも影響しているでしょうが、日本ではQC及びTQCが全盛の頃、欧米では軍需産業からとは言え、QSとしてシステマティックなマネジメントから入っていったのです。
そこに「要求事項」と言う顧客目線のチェックポイントを、顧客代行としての審査機関とその外部審査員が確認する図式が出来上がったわけです。
そして内部監査が規格要求事項に加わりました。

 2.2  要求事項は必ず組織内にあるはず…

 軍需産業の製品と言えば、主に物騒な兵器類が頭に浮かびますが、それだけでなくいろいろな民生品も入ります。
当然ながら一般産業製品用のISO 9001に衣替えするならば、高度な固有技術にあまり縛られないグレードにするのは想像に難くないとは思います。
それでも首を傾げたくなる規格要求事項がありますが、それには三つの要因が挙げられます。

  1. 要求事項が示す対象(作業・活動・モノなど)がその業種・業態に存在しない/必要としない
  2. 要求事項に該当する対象はあるが、その組織では実施していない
  3. 要求事項に該当する対象がその組織には存在しない

 たとえば運送業はサービス業になりますが、QMS 8.3項「製品及びサービスの設計・開発」の適用と言われても、
即座にはそれが何なのか、何に当てはまるのかがピンと来ないでしょう。
「設計って何だ?運送上の設計計画なんてあるのかいな?」と戸惑うに違いありません。

 上記2項あるいは3項に該当するでしょうが、よくよく考え、現状のプロセスを読み替えれば存在します。

 またQMS 9.2項「内部監査」活動はこれまでになかった組織が多いのではないでしょうか?
ある規模以上の組織であれば、従来から「監査室監査」、「監査役監査」がありますが、なかなかそれらとコラボするわけにはいかず、新たにその仕組みを作らざるを得ません。

 ISO 14001(EMS)でも6.1.2項「環境側面」の要求事項にいずれの組織もきっと右往左往したに違いありません。
新語であるばかりでなく、概念として分かっていてもそれまで突き詰めて情報収集し、解析したわけでもありませんから、その後は大変な作業になったはずです。

 もちろんこれだけではありません。
初めて各規格に目を通した方々は大いなる不安を抱いたはずです。
ISO 9001とISO 14001双方が2015年に大改訂されても、要求事項のおおかたは昔のまま踏襲されていますから、決してそれへの取り組みが格段と楽になったわけではないでしょう。

 本稿の中でも述べていますが、ISO・MS規格はいずれも特定の業種・業態をモデルにはしていません。
確かに規格の始まりが製造業界をベースにしていますが、その業務活動要素は普遍的なものです。

 したがって必ず読み替えが利きます。
確かに元々その組織には存在しない要素も前述のようにあるでしょうが、認証取得&維持ならばその要素の付加はある程度覚悟せざるを得ないのも事実です。
その余分な付加を後々メリットに変える智恵が求められます。
そのまま楽して品質の維持はできません。 

 これまでの多くの組織では、審査機関やコンサルタントの指導もあり、要求事項をそのまま化粧変えして新たに作業やモノを作り出していきました。

 しかし、通常の真っ当なビジネスをして組織を長く維持しているのであれば、要求事項の大部分は何らかの形であるはずだと自信を持つべきでしょう。

 そうでなかったら、そもそも元祖である英国やEC諸国の企業はISO・MS認証維持で根が尽き果ててその多くは没落しているはずです。

(【3】へ続く)

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