ISOMS #002

c. ISO維持部門が組織内で権威的・閉塞的になっている

 前記の原因その二にも関連するのですが、いずれの組織にもISO認証取得の準備段階から「管理責任者」を任命し、それ相応の部署を設けるのが通例です。
いずれにせよISO認証取得を果たせばそれで終わり!ではありません。
その後に認証維持という果てしない旅路が待ち受けています。


 しかし、その維持業務を部門部署に全て分配するわけにはいきません。
最新のISO規格(品質/環境)にはその管理責任者の言葉自体もありませんが、それに類する表現が要求事項にありますので、従来通り経営トップは管理責任者にそのマネジメントを委ねているのが実情です。

 ところで認証取得段階は大変な労力が組織に求められます。
認証範囲となる部門部署、店所をまとめ上げ、仕組みの共通化と共有化を図り、さらに組み立てた種々のシステムを隅々に浸透させなくてはなりません。
管理責任者と推進チームにはISOへの見識と理解、それにリーダーシップ、目的達成力などが求められます。
大失敗することは滅多にありませんが、相当なエネルギーを皆が費やすことは事実です。

 もちろん各部門などこれまでの本業務にISO・MSを溶け込ませ、一体化させてイソ活とさせていますからそれはそれで良いのですが、組織の規模によっては外部審査対応・内部監査実施・品質/環境マニュアルの整備・部門/階層へのISO普及・マネジメントレビューのまとめなどの諸業務を取りまとめる部署があった方が便利となります(必須ではありません)。

 一般的に管理責任者がその長を務める「品質管理室(QM室)」とか「環境管理室(EM室)」がその任に当たります。
当初の推進チームは各部門・部署のリーダーが加わっていましたが、取得後は前述の品質管理室、環境管理室が引き継ぎ、諸業務を取りまとめるのが一般的です。

 元来が管理責任者ご自身、組織内では重要な立場の方が多いのも事実です。
規格解釈からも組織の経営トップがその任にあたって良いほど大事な役割なのです。
したがってそのような方が仕切る部署の権威性は当初から高く、そうでなければその後の組織全体にイソ活の号令浸透と統制はかないません。

 とは言え、営業・設計・購買・生産/建設・検査など組織の基幹部門の業務そのものに直接働きかけるわけではありません。
それがISOでも求めている「責任と権限、役割」であり、また管理責任者の独立性維持です。
管理責任者が統率する「品質管理室」・「環境管理室」などは、間接的に基幹部門だけでなく、組織内の全てを見守る監視役になりますが、外部審査・内部監査などの業務の特殊性から自然と閉鎖的にならざるを得ないようです。

 そうするとどういうわけかISO規格原理主義に陥り、やるべき業務システムの軽量改革化などは問題外となり、認証取得当時からの文書・記録類死守絶対論者として組織全体の業務負担増を強いる結果につながります。

 四番目の原因は、d. 組織トップがISO自体にいつまでも興味を持たないですね。

 ISO認証については組織トップである経営者の方が意外とその必要性に早くから気づかれるようです。
日々組織の内外について情報を収集し、経営に利すると思えることには直感的に即断即決でやってみる、まさにトップにふさわしいリーダーシップとしての行動力です。

 とはいえ、ご自身で手を下すわけではなく、適材適所を考慮して人選し、その後を託するのが一般的でしょう。経営者は常に多忙なのです。
ISOについても同様で、マネジメント力に溢れた方を「管理責任者」に指名し、まかせてしまいます。

 ISO認証取得で組織の仕組みが良くなり、業務と製品の品質が向上し、信用と売上げがアップし、利益も増大する。
これが経営者の描いた当初の壮大な?イメージです。

 しかしながら現実は短期間でそう上手くは展開しません。
ISO・MSに馴染むには時間が必要です。
そうなると経営者は他のことに興味が移り、管理責任者にまかせっきりとなっていきます。

またこれとは別の経営者タイプが存在します。

 例えば我が国の組織では叩き上げの社長が結構おられます。
多くは新入社員の頃から下積みを長く経験し、優れたリーダーシップ力を身に付け、苦労と昇進を重ねてトップに登り詰めた方々ですが、ちょうど若い時にISOに遭遇するとなぜか忌避感に襲われ、苦手意識、あるいは嫌悪感が強いまま経営トップになったケースです。

 特に建設業界ですと、管理職の頃、QC・TQC・TQMと言った品質管理手法習得の津波に襲われ、やらされ感が強く残っている場合、同類項のISOに親近感が湧きませんから興味も初めからそこそこにしかありません。
通産省や建設省(現在の経産省と国交省)がやたらあおるから認証取得したけど、課長時代にはその理解と習得のためにえらい苦労を強いられた、と言う認識です。

 このような場合、ISOへの評価は投資対効果に絞られ、なかなか有形無形の成果を見出せず、その存在に否定的になってしまいます。
組織とは面白いもので、経営トップの思いは無意識でも階層の隅々に自然と浸透していきます。


 特に「ISOなんか無駄だ、やってられん!」などと経営陣が口にしようものなら、翌日から組織全体のISO離れが加速していきます。
ここでいくら管理責任者が必死に食い止めてもISO崩壊に陥ってしまいます。
これは組織内に認知バイアスである「同調性バイアス」などが蔓延したためです。
この原因は経営トップご自身の考え方に関わることゆえ、その解決は容易なことではなさそうですね。

いかがでしたか?

 以上四つの原因について述べましたが、必ずしも単一的に作用するだけでなく、相互作用的に複合化してISO返上へと向かっていくと考えられます。

 また原因はこれらに限りません。
さまざまな微細な要因が結合増幅して異なる原因に導かれるかもしれません。

 さて、皆さんの組織ではこのようなことは起きていないでしょうか?
もしこのような兆候があるのなら、そのまま諦めて安易にISO認証返上へと突き進まず、立ち止まりISOの立て直しを図ってみてはいかがでしょう。

それではどのように立て直しを図ればよいのか、次回にその糸口を探ってみることにしましょう。

By イソ丸研究所

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