ISOMS #001

 まず『ⅰ. 規格にどこまでも忠実な解釈』ですが、それ自体は守るべき約束事として大事なことです。

 しかし、少数ですが外部審査員の中にはやたら厳密なISO規格解釈に基づく業務遂行を組織に求めました。
原文は英語で、それが翻訳されてJIS化された規格を外部審査で使うのですが、本来の英文規格要求事項の持つ意味とは異なる部分も結構ありました。

 またその要求事項を導く表現に「shall」すなわち「~しなければならない」と規定されたものが大量にあり、それらを満足する業務の仕組みを再構築しなければなりません。

 たとえばその解釈が違い、異なった仕組みと判断されれば、それをただちに直さなくては不適合となり、認証取得が遠ざかります。
外部審査員はその時こう言います。「規格をよく読んで。要求事項に忠実に!」

 確かにそれは正解なのですが、わが日本国民は原文の英語の裏にある欧米文化に誰しもが馴染んでいるわけでも、深く理解しているわけでもありません。
それに加えて前述のごとく後々考えると異訳か誤訳か舌足らずからのJIS規格要求も散見されます。
でも仕方なくこれまでの業務にISO規格に合わせて、その仕組みを受審側は一所懸命に改造します。

 それだけでも重圧なのに、ISO規格要求には無いことでも審査機関の要求項目として組織に突き付けられるものもあります。
結果的には組織に役立つこともそれなりにありますが、全てがそうではありません。

 加えて規格解釈力と解釈の幅の二点で外部審査員個々に大きなばらつきもありました。
それは審査員の前職での経験分野と年数の違いです。

 現在ではどうかと言えば、以前よりは組織側に自由裁量での緩い解釈も程度により許されていますが、一度造り上げたそれまでの業務システムを大きくガラガラポンとスクラップ&ビルドできる組織はなかなかありません。

 初期に認証取得した組織では、責任感が強くISOに頑迷なまでに忠実な方が責任者として多くいらっしゃいました。
そういう方々の指導によるイソ活は多少の改善はあっても大きな改革を経験しないまま現在に至っています。

 2015年のISO大改訂以降の認証取得であっても、結構古いスタイルをそのまま踏襲し、継続しているケースが見られます。
支援するコンサルタント、あるいは外部審査員が古き良き時代のISO規格に忠実なシステム構築をお勧めしているのかもしれません。

これが「古い体質のまま~~」の原因の一要素となっていると言えるでしょう。

 次の『ⅱ. 画一的な表現の品質及び環境マニュアル』ですが、現在でも多くのISO認証組織が保有し、時に応じて改訂しているこれらマニュアルの中味を見ると【ISO規格要求事項順の配列】、【規格要求事項と同じ文言表現】が多いのではないでしょうか。

 決してそれが悪いと言っているわけではありません。
それにはそれなりの大きなメリットもありますから。

 そのメリットとは、外部審査が円滑に進むからです。
その昔の審査は、規格要求事項への適合性判断が主でした。
組織の仕組みがいかに該当規格要求事項に合っているか、を審査過程でチェックするわけですから、品質であれ環境であれ、そのマニュアル上の表現が該当規格の表現に近いのであれば一目瞭然と業務の良否が判断でき、審査員・受審組織双方にとって何かと便利です。

 しかし、現在では「プロセス・アプローチ審査」形式が主流です。
組織の実態的な活動経緯とその結果への観察を通して規格要求事項に適合しているかを判断するようになっています。

 組織側から見れば、該当規格の表現にとらわれることは無いのです。
さらに言えば、もはや「〇〇マニュアル」と言った文書は規格要求事項から消滅しています。

 だから受審側の組織にマニュアルが無くても良いのですが、「複雑な業務システムに必要なさまざまな手順のつながりが分かるようにしてね」の要求が一方にあるので、「じゃあ、やっぱり〇〇マニュアルは作っておこう」と言うことでそれらが存在しています。

 でもこのような形式のマニュアルは組織内で十分に利用されているでしょうか?
おそらく「新入社員教育」と「内部監査」の時だけでしょう。
前者は組織内のISO教育のためであり、後者は外部審査対応のためではないでしょうか。

 そろそろ品質マニュアル・環境マニュアルへの考え方を変えるべきです。
古い体質がそのままのマニュアルの、これからのあるべき姿を再考模索すべき時です。

最後の『ⅲ. 膨大な文書と記録様式の作成及び保管』ですが、これはそれらの担当の方々にとって日々切実な問題でしょう。

ISO認証返上した組織の多くがこの艱難辛苦?に悩み、疲れ、その成果を見出せずにいたに違いありません。

 初期の規格では、手順書と記録類が明確に求められていました。
それだけでなく、それまでの組織側の文書及び記録に対する考えと規格要求との間に格段の差があったため、大混乱が巻き起こり、組織挙げての苦難の末に 壮大なる文書・記録体系が造り上げられました。

 今はどうかと言えば、決して要求される数が激減とはなっていません。
ただ新造しなくてもそれに該当すると言えるものがあればあるならばそれでOKですよ、となっています。

つまり従来のものの組み合わせでも構わないと言うことです。

 どのISO規格でも当初は大手企業がその認証取得に取り組みます。
建設業界で言えば、大手ゼネコンが軒並み認証取得を果たすと、なにしろ護送船団方式で有名な業界ですから、下請、孫請けの立場となる企業にその取得を強く勧めます。

それはそれでISO普及には良いのですが、大手ゼネコンの文書・記録様式をそのまま使えと言うわけです。

 ある日、厚さ10㎝のA4ファイルがぎっしり入った段ボール箱がさる有名なゼネコンの支店から10箱ほど届き「送った文書や記録にある会社名を変えればISO 9001がすぐ取れるからすぐにこの通りに取り掛かれ!」と言われた専門工種の業者さんが結構ありました。

 「品質マニュアルだけでもこの通りに作りなさい」と言われた企業もあります。
これらは実際に筆者がご相談を受けた小規模の企業様の例です。

 規模も組織形態も業務内容も異なることなぞお構いなしの狂乱のISO認証取得ブームでした。
ところがそのような試練を経ているにも関わらず、結構多くの組織が当時そのままのシステムを未だに固く維持しているのは驚きです。

 下手をすれば棚一杯に『ISO文書』『ISO記録』と銘打った分厚いファイルが所せましと並んでいます。
ところがですよ、このISO文書・記録にある業務とは別の業務が日々進捗している組織もあるのです。

 つまりISO用のお仕事とそれ以外の業務の存在があるわけです。
不思議な話ですが、ISO用のお仕事は外部審査用であり、認証維持用になっています。

 見事なまでにイソ活が分離しています。
これ
本来のISOマネジメントシステムでしょうか?

膨大な文書と記録様式に対し組織中の誰もが何ら疑問を持たずにいれば、業務担当者の負担感はいや増すばかり。
これではISO認証返上へと組織内のムードがいつのまにか傾いていくことは必定です。

こうして
原因1. 古い組織体質のまま、ISO・MSの改革が無いために 経済効果も見られず、モチベーションが低下してISO認証返上へのプロセスを歩むことになるのではないでしょうか?

By イソ丸研究所

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