古代哲学とISOの出会い…

ISOと「因果応報」・「輪廻転生」の普遍性を考えた ISOMS #009
目 次
はじめに
今回は、古代から連綿と続く哲学的な概念と、現代のビジネスシーンで不可欠なマネジメント技法との間に見られる不思議な共通点について掘り下げてみたいと思います。
それは、「原因と結果」という法則性と、繰り返される「改善再生行動」の志向です。
ところで、「因果応報」や「輪廻転生」という言葉を聞くと、お線香臭い仏教を思い浮かべるかもしれません。
日頃からなじみ深い言葉として用いていますが、実はこれらは、もっと古いインドの宗教や哲学に起源を持ち、「原因と結果」の関係を基盤とする思想として発展してきたものなのです。
そればかりか、アリストテレスやストア派のギリシャ哲学、北欧神話など世界中の古代の文化、宗教にも通じる普遍的な原理といえるでしょう。

例えば「因果応報」はプロセス・アプローチの始祖であり、「輪廻転生」がPDCAの祖先だと言ったら、あなたはどう思いますか?
でも決してこれはたわごとでは無いのです。
この「因果応報」と「輪廻転生」の概念を、それぞれ「原因と結果」及び「改善再生行動」と言葉を変えて捉え直し、ISOマネジメントシステム(ISO・MS)との調和融合について考察してみました。
1.プロセス・アプローチに息づく「原因と結果」の概念
ISOマネジメントシステムの基盤となるのが「プロセス・アプローチ」です。
これは、組織の活動を相互に関連する一連のプロセスとして捉え、それぞれのプロセスには明確なインプット(原因)とアウトプット(結果)が存在するという考え方です。

この考え方は、紀元前1000年~500年頃に成立したと言われる古代インド哲学にその起源を持ち、ギリシャ哲学にも通じる「因果応報」の哲学と深く共鳴します。
「原因なくして結果なし」というこの普遍的な原理は、時代や文化を超えて、あらゆる事象に当てはまります。
例えば、質の高いインプットを用い、適切な手順(プロセス)を踏むことで、期待通りの高品質なアウトプット(良果)が得られます。
一方、粗悪なインプットや不適切な手順は、不良品や顧客不満といった望ましくないアウトプット(悪果)を招くことは皆さんにも容易に想像できるでしょう。
ISOが重視するリスク予防の考え方は、この「原因と結果」の概念を未来に向けて応用したものです。
将来的に望ましくない結果(悪果)を引き起こす可能性のある原因を事前に特定し、それらを未然に取り除くための対策を講じる。
即ち、未然防止=予防処置ですね。
これは、「悪い種を蒔かない」という賢明な選択と言えます。
聖書にも「豊かな収穫を得たいならば良い種をまけ」と言う言葉があり、同様な視点からの教えでしょう。
ISO・MS規格が要求する是正処置や予防処置は、まさにこの「原因と結果」の思考に基づいた、未来への悪影響を断つための具体的な手段なのです。
2.組織の継続的改善「PDCAサイクル」は「改善再生行動」の哲学
ISOマネジメントシステムのもう一つの重要な柱であるPDCAサイクルは、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)」という四つの段階を繰り返すことで、組織の活動を継続的に改善していくためのフレームワークであることは皆さんも良くご存じの通りです。
このサイクルは、一度きりの活動で終わるのではなく、評価の結果を次の計画に反映させ、再び実行するという形で、らせん状に継続的に繰り返されます。
「スパイラル・アップ」がこれに当たります。
これは、古代インド哲学の根本的原理である「輪廻転生」、すなわち「改善再生行動」の概念を彷彿とさせます。
失敗や反省を経験として捉え、それを次の行動の糧とする。
現状に満足することなく、常に改善を目指し、より良い状態へと進化していく。
このような原則的な視点は、ISOの継続的改善の精神と深く結びついています。

3.古代の概念と現代マネジメントの普遍的な智慧
もちろんISO規格が直接的に古代の概念を起源とするわけではありません。
しかし、古代の人々が日々の経験や考察を通して体系化してきた普遍的な智慧は、時代を超えて現代のマネジメントシステムにおいても遺伝子的に継承されて、その輝きを失っていないように思えます。
良い行いは良い結果を生み、悪い行いは悪い結果を生むという「原因と結果」の原理原則は、いつの世でも個人の行動だけでなく、組織の活動においても同様に当てはまります。
高品質な製品やサービスを提供し、誠実な企業活動を行うことは、顧客からの信頼を得て、企業の持続的な成長という良果をもたらすことは前述した通りです。
また、一度の失敗で全てが終わるのではなく、そこから学び、改善を繰り返すことでより良い状態を目指すという「改善再生行動」の考え方は、ISOの継続的改善の精神に受け継がれています。
内部監査やマネジメントレビューといったISOの仕組みは、組織が自らを客観的に評価し、改善の機会を見つけるための重要なプロセスであり、これは「改善再生行動」における重要なステップと捉えることができるでしょう。

4.古代からの智慧とISOの融合がもたらすメリット
古代から受け継がれてきた哲学的な視点をISOマネジメントシステムに重ね合わせることは、単なる思考遊びにとどまりません。
現代の組織に具体的かつ実利的なメリットをもたらす可能性をそこに秘めています。
それではどのようなメリットがあるのでしょうか?
まず「原因と結果」という原理を今以上に浸透させることで、属人的な勘や経験に頼らず、なぜ失敗が起きたのか、どうすれば再発を防げるかという思考が組織全体に根づきます。
これにより、問題発生時の対応力とその後の復旧時における再現性が飛躍的に高まるのです。
また、「改善再生行動」を各プロセスにおけるPDCAの中核に確実に据えることで、失敗を単なる“ミス”と捉えず、そこからリスク予防を学び、再挑戦につなげる文化がおのずと育ちます。
これは、社員の納得感やエンゲージメントを高め、自発的な改善活動を生む土壌を広げていくことを意味します。
さらに、経営者や管理職にとっても、日々の意思決定において「何が種(原因)で、何が果(結果)か」を冷静に見極める視点が得られ、判断軸がぶれない組織運営を可能とするはずです。
現在進行形でISO・MSに取り組まれて、もっとこの仕組みを組織内に平明に理解浸透させたいとお考えなら、一度馴染みのある言葉「因果応報」と「輪廻転生」の原理に置き換えて教育されてみてはどうでしょう。
「因果応報」は「原因と結果」の原理で、それが『プロセス・アプローチ』のマインドであり、「輪廻転生」は「改善再生行動」を意味し、それが『PDCA』を動かしていく法則なんだよ、と。

まとめ:古きを訪ね、新しきを知る
ISOマネジメントシステムの根底には、古代から脈々と受け継がれてきた「原因と結果」、そして「改善再生行動」という概念と深く共鳴する普遍的な原理の存在がありました。
単に「効率アップ」や「品質向上」といった看板的字句に左右されるのではなく、組織の行動と結果、継続的な成長を、より根源的な視点からISO・MSに見出すことで、その意義や重要性をより深く理解することができるのではないでしょうか。

日々の業務における一つ一つの行動が、未来の組織の姿を形作る種となり、その結果はやがて現れます。
さらにその結果から内省と改善を繰り返すことで、古代の概念が羅針盤となり、求める方角に向かって常に変化し、成長していきます。
ISO・MS規格は来年(2026年)、さらなる改訂の準備が進行中です。
面倒ですね。
またISO認証返上をお考えの組織もあるでしょう。
ISO・MSにまつわるさまざまなお悩みがあるでしょうが、ここでちょっと立ち止まり、我々日本人にはなじみ深く、日頃から使い慣れている「因果応報」、「輪廻転生」を新たな視座に用いて、業務システムを見つめ直してはいかがでしょうか。
了
イソ丸くん