ISOMS #008

それでは、ISOMSの代表的な規格である品質・環境・労働安全MS三者それぞれの気候変動の追補による関わりはどのようなものかを考えてみましょう

4.1 ISO 9001と気候変動

ISO 9001(品質MS)で気候変動に関連するのは、主に品質に対するリスクベースの考え方と顧客要求への対応でしょう。

品質と持続可能性:気候変動は製品やサービスの品質に直接影響を与えます。例えば、異常気象による生産遅延や資材不足が考えられます。

ライフサイクル視点の強化:製品の設計段階から廃棄までのライフサイクル全体を通じて、気候変動につながる環境負荷を低減する取り組みが求められます。

● サプライチェーンの透明性:気候変動の影響を受けやすいサプライチェーンに対して、透明性を高め、それらのリスクを管理する必要があります。

● 心理的安全性の確保:気候変動に伴う不確実性が、労働者のストレスやメンタルヘルスに悪影響を与えるリスクがあり、この予防は組織自体を守る重要な手段となります。

これは労働安全衛生にもリンクしますが、経営資源としての「ヒト」を守ることは、『業務品質』と『経営品質』を維持する要となるものです。

品質MSの健全な運用により、気候変動が引き起こす問題を未然に防ぎ、結果として顧客満足を維持するための重要な役割を果たします。

4.2  ISO 14001と気候変動

ISO 14001は、直接的に環境問題を扱う規格であり、気候変動への対応ではその中核に位置します。

  • 気候変動適応と緩和:組織は、事業活動が気候変動に与える影響(例:温室効果ガスの排出)を特定し、削減する取り組みを強化する必要があります。
  • 戦略的環境管理:環境側面の評価において、気候変動に関連する要素(例:水資源の確保、エネルギー効率の向上)が重視されます。
  • カーボンニュートラル目標:各国で定められる排出量削減目標に合わせた行動が求められています。

ISO 14001の適正運用を通じて、組織は気候変動対応への具体的行動を推進することができます。

4.3  ISO 45001と気候変動

ISO 45001においても、気候変動は新たな安全衛生リスクとして注目されています。

  • 気候変動がもたらす労働環境への影響:極端な気温変化や自然災害が、作業員の健康や安全に影響を及ぼす可能性があります。
  • レジリエンスの強化:緊急時の対応能力を高めることで、従業員の安全を確保する必要があります。
  • 心理的安全性の確保:気候変動に伴う不確実性が、労働者のストレスやメンタルヘルスに悪影響を及ぼすリスクがあり、この予防は組織自体を守る重要な手段となります。
  • 労働環境改善:異常気象からの夏季の酷暑・激暑・猛暑化にある作業環境下の労働従事者の健康維持は、ISO9001の製品品質・業務品質維持にもつながります。

労働安全衛生マネジメントシステムは、気候変動の影響を最小限に抑えながら、安全で健康的な労働環境を維持するための重要な役割を担っています。

今回の「追補」に対して各ISOMS規格の認証を受け持つ審査機関はそれぞれ独自のスタンスで認証組織・受審組織に解釈と指導を行っているでしょう。

おそらくサーベランスや更新審査などでの「追補」確認は夏ごろから徐々に盛況になっていると思います。

それではその「追補」対応には何を注意すれば良いのでしょうか?

5.1 組織(企業)側の「追補」対応法

今回、追補で明らかになっている点は以下の2つでしたね。

1. 気候変動が組織にとって「関連課題」かどうかの判断および決定(明らかな規格要求事項)

2. 利害関係者からの気候変動に関する要求事項の把握と決定(プロセス・アプローチとして当然の準要求事項)

この2つが各MS規格の4.1及び4.2項に増えたわけですが、まずこれらを組織の実情に合わせてどこかに明記することから始めましょう。

多くの組織では「品質マニュアル」「環境マニュアル」、あるいは二者併せて「品質・環境マニュアル」などを作成維持しており、その良し悪しは別として、該当マニュアルは認証維持規格の要求事項を読み替えて構成しているはずです。

その4.1及び4.2項にこの「追補」内容とほぼ同じ文言を加筆修正します。

これで、今回の「追補」に対する処置は完了となります。

と思ったら、それは大間違い!

ISOMSは具体的に各プロセスがどのように組織の内外で関係し、活動しているか、が重要なのです。

関連文書の関連個所に文言の増減を図っただけでは何の意味もありません。

つまり4.1及び4.2項だけに「気候変動」を明記すれば良いのではなく、その原因系と結果系が自社のさまざまなプロセスを構成する他の要求条項に飛び火し、リンクしてネットワーク化されていることを明示させなくてはなりません。

まず組織/企業にとって「気候変動」とは何か?を皆で協議し、共通認識と危機感・期待感を共有することから始めましょう。

「気候変動」そのものが無関係という結論も確かに「有り」ですが、考慮する範囲が管理しうるサプライチェーン全般に関係するとなると、これを否定するのは難しいかもしれません。

次にその気候変動に関する外部(世界・社会・業界など)との関係性、あるいは問題性、また内部(社内・現場内・個人など)との関係性、あるいは問題性を洗い出していきます。

要は自組織のマネジメントシステムの維持を有効に保つために、この気候変動の側面とリスクなどを検討し、組織の目標や活動に組み込んでPDCAを回すことです。

取得しているISOMS規格及び業界の特性などによってそれぞれのプロセスと活動が異なっているでしょうから、これまでの改善手順などにしたがって解決していくと良いでしょう。

ここではその細部について触れるスペースが残念ながらありません。

もしもご不明なようでしたら、お気軽に当方にお問合せ、ご相談ください。

5.2 審査機関側の「追補」対応

審査機関もまた、気候変動を踏まえた審査方針の修正を行っているでしょう。

と言うのも、ISOMS認証機関でもある審査機関を束ねる元締めであるJAB(日本適合性認定協会)が今年の4月2日付でこの気候変動追補版に関する対応法を各審査機関に流しており、それにおおむね従った確認審査を履行するか、もしくはしていることでしょう。

ここで明確に言えることは、審査場面では「気候変動」を含め、関連性があると判断した全ての外部及び内部の課題を考慮していることを丹念に確認することが審査員の仕事になります。

ただし、現状では不適合を必要以上にほじくり出すような審査員はいずこにもいないでしょうから、運用の現状確認を進めながら、適切な所見を述べてくれると思います。

あえて文字を連ねるならば、以下の点のいずれかに焦点が当てられるでしょう。

リスクと機会の評価:気候変動関連リスクが適切に特定され、それに対する対策が講じられているか

具体的な行動の検証:たとえば温室効果ガスの削減計画や災害対応計画が有効か

教育と訓練:従業員など(密接な関係のサプライチェーンも含めて)が気候変動に関する知識を深め、適切な活動が行えるよう教育がされているか

規格間の連携を重視:品質、環境、労働安全などの相互関係を生かして、漏れはなか(認証の複数取得の場合)

審査プロセスにおいて、組織が気候変動にどう対応しているかを確認し、持続可能な運営を支援することが今回の「追補」に対する審査機関の基本姿勢と考えられます。

2024年2月のISOMS規格の改訂は、気候変動という喫緊の課題に対する国際的な取り組みを反映したものです。

そこでは、品質・環境・安全衛生などの広範な分野が気候変動とどのように向き合うべきか、具体的な指針が示されています。

それは2021年ロンドン総会で、気候変動に組織を挙げて取り組んでいくことを 「ロンドン宣言」 として採択したときから始まったことは冒頭で述べた通りです。

以降,気候変動対応に関わる広範な活動を展開し、結果的に今回の多くのISOMSへ「気候変動への配慮」を盛り込むことになったわけです。

組織/企業はこれを機に、自らのマネジメントシステムを再評価し、持続可能な未来に向けた一歩を踏み出すことが求められています。

ここで忘れてはならない大事なことがあります。

要求事項が増えたことを受けて単に品質マニュアル、環境マニュアルなどの自社の関連文書の修正・改定だけで終わらせていけないことは前述の通りです。

また、追補に派生する審査機関とのやりとりだけで、事が丸く収まったなどと安堵してはなりません。

この追補の「気候変動」に関わる重大な地球の危機とそのリスク対応の知識と知恵を従業員のみならず、サプライチェーンを含む大事な利害関係者に広めていくことが期待されます。

さらに「リスクと機会」と言う言葉がある通り、地域と地球を救うビジネス・チャンスに結びつけるレジリエンスな発想と実行力が求められます。

ISOMSを上手に利用し、動かして次の世代が安心して活躍できる地球環境を創っていくことが大事です。

ここで述べた小改訂である「追補」の後に、2026年秋には本格的なISO 9001、ISO 14001などの改訂が着々と進められています。

その件は年を越してからのブログでお伝えしていくことにします。

この一年、つたないブログをお読みいただき有難うございました。
また来年、よろしくお願いいたします。

By イソ丸研究

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です