ISOMS #008
ISOMS規格の追補改訂と気候変動への対応
目 次
はじめに
もうすぐ2024年も終わりですね。
今年2月、ISOマネジメントシステム規格(ISOMS)群の多くに「追補」という形で小改訂が行われました。
この小改訂は気候変動への対応を念頭に置いたものでした。
それ自体は小さな追補ですが、奥深いものを秘めている内容でもあり、お問合せをいただいた企業様にはそれへの対応方法をお伝えし、実行していただきました。
その後もご質問など頂戴し、都度お話をさせていただきましたが、ここで改めてブログとして追補改訂の背景、具体的内容と影響についてちょいと掘り下げて解説させていただきます。
1. 気候変動とは何か?
今回の追補と言う小改訂の主題は「気候変動」そのものでした。
まずそこからお話をしていきましょう。
一般的には気候変動とは、さまざまな原因により、地球規模での気温、降水量、風のパターンなどで示される気候が比較的短期に変化する現象を指します。
対して「気候変化」は中長期的な気候の変化を言います。微妙な違いですね。
それでは気候とは何か?
一言で言えば「大気の平均状態」を指しています。
以前は「地球温暖化」と言う言葉が多く用いられていましたが、その温暖化に対する賛否両論の対立が激しく、いつの間にかこちらの「気候変動」が主に世間では用いられるようになったような感じもします。
その気候変動の主な原因は、自然的要因と人為的要因の二つに大別され、後者の典型的なものとして化石燃料の燃焼や森林破壊による温室効果ガスの増加が挙げられています。
この結果、異常気象、海面上昇、生態系の破壊などが引き起こされています。
確かに近年、世界中で異常気象が場所を選ばずに多発し、思いもよらぬ地域で大災害をもたらしています。
これらの影響は私たちも含め世界中の人々の生活や経済活動に何らかの深刻な影響を及ぼすため、国際的な対応が求められていることは皆さんもご存じのことでしょう。
2. 「追補」の背景を知る
気候変動は今や単なる環境問題にとどまらず、経済や社会全体に影響を及ぼすグローバルな課題となっています。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書では、産業活動や人間の生活が気候変動を加速させていることが明確に示されています。
このような地球規模の状況下で、企業活動全般を最小限の環境負荷に抑えながら、気候変動への適応力を高める方向へ導くためにISO本部もその対応を求められたのでしょう。
それは、ISO自体が2021年のロンドン総会で 「ロンドン宣言」 を行い,気候変動に組織を挙げて取り組んでいくことを宣言したことでも明白です。
それ以来,精力的に気候変動対応に関わり、一つの具現的な成果として今回の改訂に結実したわけです。
改訂が及ぶ対象規格は、ISOMS全般になっています。
したがって代表格のISO 9001(品質)、ISO 14001(環境)のみならず、ISO 45001(労働安全衛生)などの各規格にも、それぞれの規格特性を生かしながら気候変動の課題に取り組むことが追加されました。
ISO本部が気候変動を迅速に規格に取り込んだ要因には、以下の点が考えられます。
a) 地球規模での気候危機の深刻化
IPCCの報告書や各国の科学研究によって、気候変動が人類全体に及ぼす脅威が明白になりつつあり、各国政府や企業に迅速かつ具体的な対応が求められているため
b) 企業/組織の役割の強調
気候変動の抑制や適応には、政府だけでなく企業/組織の役割が重要であり、ISO規格は企業/組織の枠組み作りをサポートするために有効と考えられるため
c) 国際的なプレッシャー
COP(気候変動枠組条約締約国会議)などの場で、国際社会が気候変動問題に対して迅速に取り組むことが求められてきており、ISOとしてもグローバルスタンダードの策定を通じて、これを支援する必要と使命が求められるため
d) 持続可能な経済成長の推進
気候変動への対応は環境保護だけでなく、持続可能な経済成長や新しいビジネスチャンスの創出にも寄与することは明らかであり、ISO規格がその基盤を提供しているため
3. 4.1項と4.2項にはどのように追補されたか?
ISOMS規格の追補から10か月も経過した現在では、ISO認証取得企業の多くは、毎年定例のサーベランス、あるいは3年ごとの更新審査を受審し、既にこの追補に伴う課題をクリアされたことでしょう。
したがってその追補内容がどの項目になされたかはよくご存じだとは思います。
しかし、初めて見聞される方もおられるかもしれませんので、簡単に記しておきましょう。
ここでまず注目すべきことは、ISOMS規格そのものです。
現在この規格群に属しているものがおよそ30種以上もあります。
その代表格がISO9001(品質)であり、次にISO14001(環境)、さらに情報システムや労働安全衛生などが続きます。
これらには‶Annex (附属書)SL”と呼ばれるISOMSの基本的枠組みが定められており、MS規格のほぼ全てがこのテンプレートとも言うべき共通項で規定されています。
この‶Annex (附属書)SL”の枠組みは、2012年に発行されたISO 22301:2012(社会安全保障 – 事業継続マネジメントシステム)にまず導入されました。
その後、2015年には品質、環境、労働安全などに軒並み導入され、普遍的な形式となったのです。
ISOMS規格の全体構造(Annex SL)では、SL.1からSL.8まであり、そのSL.8にはさらに4つのAppendixが含まれています。
注目すべきは、Appendix3であり、これには「 上位構造、共通の中核となるテキスト、共通用語及び中核となる定義」が規定されています。
この「上位構造」、即ちHLS(ハイレベルストラクチャー)は、ISOMS規格の条項を統一するために定義されたもので、1~10の条項とその表題が順番に並んでいます。
今回の追補となった小改訂内容は、その中の4.1項(組織及びその状況の理解)と4.2項(利害関係者のニーズ及び期待の理解)に含まれる重要な要素となります。
具体的にはどのように追補されたのでしょうか、次を見てください。
4.1項 「組織及びその状況の理解」
組織は、その目的に関連し、そのXXXマネジメントシステムの意図された結果を達成する能力に影響を与える外部及び内部の課題を決定しなければならない。
組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。
4.2項 「利害関係者のニーズ及び期待の理解」
組織は以下を決定しなければならない。
・XXXマネジメントシステムに関連する利害関係者
・これらの利害関係者の関連する要求事項
・これらの要求事項のうち、どれがXXXマネジメントシステムを通じて対処されるか
注記:関連する利害関係者は、気候変動に関連する要求事項を持つことがある。
ちなみに上記文中の「XXX」には「品質」「環境」「労働安全」など該当組織が必要な規格名が当てはめられます。
それでは上に示した二つの項目に気候変動を含めた理由は何でしょうか?
- 統合的な課題認識の促進:気候変動は、品質、環境、安全衛生などマネジメントシステムの全領域に影響を及ぼす横断的な課題であるため。
- 利害関係者の期待への対応:消費者、投資家、規制当局、従業員、サプライチェーンなど、多くの利害関係者が気候変動の影響下にあり、何らかの期待を有しているため。
- 戦略的リスク管理の強化:気候変動に関連するリスク(例:自然災害、資源不足)を早期に特定し、事業継続計画(BCP)に組み込むことが求められるため。
- 適応能力の向上:組織が持続可能な運営を確保するために、気候変動に適応する仕組みを内在化させる必要があるため。
このような理由から、各規格の共通部分で気候変動への取り組むべき方向性を示したのでしょう。
ここで注意したいのは、4.1項では明らかに規格要求事項の一つであり、「気候変動が関連する課題であるかどうかの決定」をしなければなりません。
4.2項の「注記」は要求事項ではありませんが、その点を考慮する必要があります。
つまり何らかの利害関係者から気候変動に関わる要求事項があるか否かを確かめることが求められます。
ところでもう一度、前掲の「1. 気候変動とは何か?」を読み返すと気が付くことがありませんか?
「気候変動」と言う用語には、原因と結果が混在していますね。
① 気候変動の原因(ここでは人為的要因に限ります)
- 化石燃料の燃焼や森林破壊による温室効果ガスの増加
② 気候変動の結果
・異常気象 ⇒ 巨大化する台風・ハリケーン、長期の干ばつ、豪雨災害、氷河融解
・海面上昇 ⇒ これにより国土の消失、洪水
・生態系の破壊 ⇒ サンゴ礁の消滅、野生生物の絶滅など
これだけでは無いでしょうが、象徴的なものとして羅列してみました。
つまり組織が関連する原因系と結果系を確実に明確化し、種別する必要があります
これってISO14001における『環境側面』と『環境影響』に通じるものがありそうです。
さらに気候変動の原因系ではおおむね私たちは加害者側的であり、逆に結果系では被害者的位置にいそうなことも容易に理解できそうですね。
これらの点をしっかりと把握して次なる行動が必要となるでしょう。
《p.2に続く》