FREE #002 季節の風物詩

ここ数日、東京は秋晴れと言うか、冬晴れと言うか、穏やかな晴天に恵まれています。
こんな日の午後はなるべく戸外に出て日を浴びるようにしています。

年々歳々、老化現象は精神にも忍び寄り、体を動かすことが大義になります。
そのやる気のなさを押しのけて散歩に出るのは一大決心がいるのです。
早い話、単なる自堕落人間に過ぎないのですが、健康維持のためには必須業務です。

散歩は家を中心とすれば東西南北いろいろなコースがありますが、今日は芝公園としましょう。
ここが一番手頃な距離で、何より本が読めるのが最大のメリットでもあるのです。

この地、芝公園は明治6年の太政官布達により、上野、浅草、深川、飛鳥山と共に日本で最初の公園として指定された由緒ある公園なんですね。

その昔は徳川家ゆかりの増上寺境内だったのですが、戦後の政教分離によって境内の部分が除かれ、環状の公園になりました。
東京タワーの立つ場所も芝公園の一部だったはずです。
さらに時代を遡れば、なんとここいらは海辺で貝塚もあり、そして「丸山古墳」と名付けられた前方後円墳も現存する歴史ある地なんです。

園内にはクスノキ、ケヤキ、イチョウなどの巨木・大木が至るところにあり、また湧き水が可愛い滝になって「紅葉谷」と名付けられたミニ渓谷もある楽しい公園になっています。

園内で目を引くのは銀杏で、今が黄葉の時期。
ちょっと前は銀杏の実が辺り一面に落ちていて、その臭いにめげず、銀杏集めをする人も見かけました。
地球温暖化のせいか、気候変動の影響か、銀杏の黄葉が昔は11月だったのが、今では師走の12月にずれています。
それはともかく、銀杏の落ち葉の絨毯は綺麗ですね。
その代わり、「紅葉」に変身する樹木がさほどありません。

京都などに見られる紅葉の名所が関東地方には決して多くありません。
関東地方は秋冬の一日における寒暖の差が少ないからです。
寒暖の差が大きいとくっきりした紅葉が色鮮やかになるそうで、確かに楓(カエデ)の葉を見るとこちらでは紅くならず、すぐに茶色に枯れていきます。 

ところで紅葉狩り(もみじがり)とは何でしょう?
「鷹狩り」「イノシシ狩り」「鹿狩り」など狩りの対象は動物が主ですね。
「鷹狩り」は鷹を獲るのではなく、鷹を用いて動物を捕まえますが、他も対象は動物です。
「紅葉狩り」だけ植物が相手で、風変わりな言葉ですね。

これはその昔の貴族の洒落で、普段は狩りなどしない貴族たちが屋敷の庭園から出て近くの野山に出掛け、見事に色づいた紅葉を愛でるところからこの言葉が来ました。
諸説はいろいろあるようですが、綺麗な紅葉を手折り、その色合いを楽しんださまが思い浮かびますね。
奈良、平安京の風雅な貴族遊びが江戸中期に庶民にも広まって、ハイキングかピクニック気分で弁当や酒を持って皆でこの紅葉狩りを楽しんだようです。

秋冬の読書に向いているのが、芝公園4号地です。
ここにある南西向きのベンチに座って、しばし読書タイム。
時折り、持参したミニポットの淹れたての熱い珈琲を飲むのも最高です。

午後の陽は瞬く間に人やモノの影を延ばしていきます。
一時間も陽を浴びれば結構体も温まります。
今日は読書も進み、心もほっこりしました。
帰るとしましょう。
ところで、深紅に染まった木が実は我が家にあるのです。

我が家の庭に見立てた狭い路地に置いた「錦木」と言う落葉樹がちょうど紅葉の真っ盛り。
これは見事です。
この錦木は、その枝の形状から別名「カミソリノキ」と呼ばれる落葉低木です。
でも「錦(にしき)の木」と名付けられるだけあって、なんと世界三大紅葉樹と称される秋の紅葉が美しい植物です。
今年もこの紅葉を季節の風物詩として見られたのが幸いです。

皆戸 柴三郎

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