気候変動がISOMSを変えた!

追補改訂が投げかける大きな問い ISOMS #016

今回から3回にわたり、気候変動とISOMSの関わりについて解説します。

気候変動は、品質・環境・労働安全衛生に少なからず影響を及ぼす大事なキーワードです。

2024年2月。

世界中の多くの企業が採用しているISOマネジメントシステム規格群(ISOMS)に、「追補(Addendum)」という名の小さな改訂が加えられました。

その中心にあったのは、かねてより国際社会が最優先課題として掲げてきた「気候変動」です。

一見すれば、条文にほんの数行が加えられただけのようにも見えるこの追補。

しかし、それが組織に突きつけるものは、決して小さくはありません。

むしろ、企業という存在が今後「何を守り、何に備え、何に挑むのか」

という根本的な問いかけを含んでいることに注目しなくてはならない言葉なのです。

まず確認しておきたいのは、この「気候変動」という言葉の意味です。

それは単に気温が上下するだけの現象ではありません。

地球全体で起こっている、気温・降水・風・気圧などの気候要素が、比較的短期間で急激に変化していく現象のことを指します。

ここで留意すべきは、「気候変化」が中長期的なゆるやかな変動を指すのに対し、「気候変動」はより緊急性を帯びた、今まさに進行中の不安定で予測困難な変化を意味しているという点です。

原因には2つあります。

ひとつは自然的要因(太陽活動や火山噴火など)、もうひとつは人為的要因(化石燃料の燃焼、森林破壊、工業活動の拡大など)です。

特に近年は後者が圧倒的な影響力を持っており、その結果として:

・異常気象の頻発(巨大台風、豪雨、干ばつなど)

・海面上昇と沿岸部の水没リスク

・生態系の崩壊(野生動物の絶滅、農業の壊滅)

などが現実のものとなりつつあります。

こうした現象は、私たちの暮らしや地域経済、国際物流などあらゆる分野に連鎖的な影響を及ぼしているのです。

ISO(国際標準化機構)は2021年、ロンドン総会において「ロンドン宣言」を採択し、「すべての標準化活動において気候変動を考慮する」と全世界に向けて明言しました。

この宣言を契機として、2024年に至り、ISOMSの基礎となる全てのマネジメントシステム規格に対して、共通的に「気候変動」の要素が加筆されることになったのです。

追補には以下のような理由が挙げられるでしょう:

  • 地球規模の気候危機の深化
     IPCCの報告書が示す通り、地球温暖化は加速度的に進行し、その大部分は人間活動によるものだとする見解が国際的に支配的になっています。
  • 企業の責務の拡大
    かつて環境問題は行政やNGOが担う分野と思われていましたが、現在では「企業こそが未来を守るための実行主体」としての責任を問われています。
  • COP等における国際的な圧力
    各国の政策や規制、国際合意が企業に対して「見せかけではない具体的行動」を求めてきています。
  • 持続可能な成長=気候対応
    気候変動は単なるリスクであると同時に、新たな市場、新たな技術革新、新たな価値創造の源でもある——この前向きな視点も大きくなっています。

国際政治と世界経済が地球規模の気候変動の渦に巻き込まれ、その中からの再生を考えずにはいられない状況になりつつあることを示している証左でもあるのでしょう。

今回の追補は、ISOMS規格の共通構造「Annex SL」に準拠する第4章「組織の状況」の中の、特に以下の2つの条項に追加されました。

    • 4.1項「組織及びその状況の理解」
      「組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなければならない。」

これは明確な要求事項であり、単なる参考情報ではありません。

自社のビジネスにとって気候変動が本質的な影響要因であるか否かを、自らの頭で考え、判断し、記録に残す必要があるのです。

    • 4.2項「利害関係者のニーズ及び期待の理解」
      「注記:関連する利害関係者は、気候変動に関連する要求事項を持つことがある。」

こちらは「注記」であり直接的な要求事項ではありませんが、軽視すべきではありません。

顧客・従業員・規制当局・株主・地域住民など、あらゆるステークホルダーが気候変動に何らかの期待や懸念を持っている可能性を、

企業として真摯に捉える必要があるという「呼びかけ」です。

たったこの二つだけですが、これらはISOMS規格全てに挿入され、反映されています。

つまり代表的なQMS、EMS、OHSMS全てにこの二つの条項が明記されたわけです。

ここで重要な事実を一つ述べましょう。

「気候変動」という言葉には、加害性被害性の両面が同居しています。

  • 加害者としての側面
     温室効果ガスを排出し、地球環境を悪化させている主体としての企業。

つまり組織は、自らが原因を作っている側面と、結果に苦しむ側面の両方今以上に自覚しなければなりません。

この因果の連鎖である「二面性の受容」こそが、これからのISOMSの基盤になっていくのです。


                                            イソ丸研究所

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